哲夫と晶の夏の前日が終わり、夏が来た。
誰かが言っていたけど、本当に吉田基已先生はめんどくさい恋愛を描くのが好きらしい。
話の頭から哲夫はずっとはなみのことを心に留めていて、だけど哲夫を見初めた晶と結ばれたことから晶と付き合うようになる。
俺はどちらかというと、はなみの方が可愛らしくていいなと思いながら読んでいたのだけど読み進めていくうちに哲夫に対して怒ったり嫉妬したりする晶のことが愛おしくなっていった。つまりどう転んでも俺は悲しくなって哲夫をぶん殴ってやりたくなるのだ。
そうしてこの最終巻において晶は知ってしまい、哲夫は気付いてしまう。
この作品の面白いところとしては哲夫の愛が二つの形に分裂しているところなのだろう。つまりは彼は晶に対しては肉欲的な、はなみにたいしては精神的な愛を持っていたという風に思える。
晶にはイチャコラベタベタしまくってた哲夫がはなみには童貞全開のアタフタした対応しかとれないのだから。
しかし晶にめちゃんこわがまま言ったり上位みたいな顔をしていた哲夫がアタフタする時もあり、それはセックスの時なのだ。すると、哲夫の本質とはそこなのではないかと思える。
愛を向ける相手に対しては余裕がなくなってしまう超童貞体質なのだろう。非童貞なのに。晶さんとあんなことこんなことしやがってくそっ。
しかし当然ながら別に哲夫は晶の身体だけが好きだったわけではないだろう。晶に向けていた笑顔は犬のようで愛らしかった。そりゃあ哲夫にとってはゆきずりセックスから始まった恋愛なんだから晶のように異性としての愛を持った状態からスタートというわけではない。すると彼は晶と付き合う中で他の形の愛を、おそらくは母や兄弟のようなちかしいものへの愛を育んだのではないかな、と。思う。
だから、哲夫からしてみたら、この夏の前日というのは独り立ちの物語だったのではないだろうか。
でも晶さんボロ泣きなのにキリッとした顔で絵に向かいあって話締めた哲夫はぶん殴る許せん。
ちなみにこれ読んでから数か月前に買ってあった後日談である水の色 銀の月(発表された順番的には夏の前日の方が前日譚なわけだけど)を読んだのだけれど、だけれど、晶さんのことを思うと心が痛くて仕方なかったよ…つらい
しかもプラトニックラブの象徴だったはなみはセックスしまくりだし…つらみ